2012年10月01日

鉛筆【中3MKさん】

少女のクラスにはいじめられている少年がいた。彼は顔が端正とはいえず、また気弱な性格だった。いいように使われたり、それに反抗してけなされたりしていた。少女には、それが当然とは思えなかったが、皆の反感が怖くて黙って見ているだけだった。

ある日、学校の帰り道、小学生が公園で遊んでいるのを見た彼女は、彼とよく一緒にいたなと、ふと思い出した。彼とは家が隣同士だった。だんだんと疎遠になって、今はもう話しかけられもしないことに、一瞬悲しくなった。

その午後、少女の家に彼がやってきた。回覧板を届けに来たのだった。彼女は驚いたが、二人で話していたのを誰かに見られて、編やな噂を立てられたらたまらない、と、急いでそれを受け取って帰そうとした。すると、彼は、「これ」と言った。彼女が振り返ると、差し出された彼の手には鉛筆が握られていた。よくよく見ると、昔少女が彼に貸したものだった。彼はそれを渡すとゆっくり帰っていった。

少女は鉛筆を見つめた。小学校から使っていたものだ。後ろが削られ、幼い字で自分の名前が書いてあった。試しに紙に字を書くと、思いがけず、思い通りにすらすらとなめらかに書けた。

なぜか、少女は情けなくなった。

 

【講評】小説作文です。中3の女の子が一学期に書いたものです。設定などにリアリティの問題がありますが、すらすら書ける鉛筆とうまくいかない自分を重ねる手法をとろうと、苦労したのです。これまでに紹介したものは、男の子の作品でしたが、これは女の子らしい感性も生きていますね。



posted by まつさくら at 00:35| Comment(0) | 小説作文

2012年08月16日

「万年筆」中2 YS君

ある日、男は外の景色を見ていた。男は里帰りで、実家に帰っている最中だった。

 家事の手伝いなどを済ませ、縁側に寝転んでいた。すると、そこへ大き目の箱を持った男の母親が来て、箱の中身を見せてきた。その中には男のアルバムや少年期の思い出の品がたくさんあった。男は懐かしい気持ちでその品々を見ていた。

男が注目したのは、インクの切れた万年筆だ。それは、小さい時に祖父から譲りうけたものだった。その万年筆を使っていると、祖父が応援してくれている気がして、男は勉強し続けたものだった。しかし、万年筆のインクが切れた頃、祖父が死に、同時に男は気力も欠いて、優等生から劣等生へ転落、二流大学、二流の会社の平社員、そんなふうになってしまっていた。

ふと、顔を上げた時、仏壇に飾られた祖父の写真が目に入った。その時、男は無駄にした祖父の気持ちを思った。人生を悔い、それは涙となって男の目からあふれ出た。

それから数年過ぎた。会社に男の姿はない。でも、机に向かって働いていることに変わりはなかった。その手にはあの万年筆。男はあの日からすぐにかねて心に秘めていたことをするため、開業した。今はその会社も大きな企業となった。

万年筆のインクは、今日も満々だ。


【講評】
これも、前に紹介した「星」同様、テーマをずばりとは書かず、読み手に推測させる手法で創作したショートストーリーです。なぜか若い少年たちに創作依頼すると、設定が社会人なんですよね。読んでいる本がそうだからかもしれません。表現の修正は入りましたが、着想とストーリーはそのまま。深く読む作業ができるようにならないと、なかなか深く書く作業はできません。彼はエッセイも論評も、どちらも力をつけていっています。
posted by まつさくら at 12:45| Comment(0) | 小説作文

2012年07月15日

「星」【高1 YF君】

まだ、日の出ていないほど朝早くに、男は仕事の準備をしていた。資料や書類をカバンに入れ、洗面所へ向かう。脱衣所のカゴに放り込まれている喪服が目に付いた。鏡には暗い顔が映っている。
男は今日初めて仕事に行く。本来なら、それを祝いに母が家に来るはずだった。数日前の災害が無ければ。
母は女手ひとつで自分を育ててくれた。表には出さなかったが、その苦労は男も感じ取っていた。そして、男が自立しようという時に、母は突然あっけなく死んでしまった。誰が悪いのでもない。しかし、結局、ずっと自分を見守っていてくれた母に、恩返しすることも、自立した姿を見せることもできなかった。
家を出てしばらく歩き、足が止まった。見送ってくれる母はいない。それはわかっていた。けれども、振り向かずにはいられなかった。
もっとも近い恒星が、男を照らしていた。今までずっと人々を見守り続けてきた星。男はそれに気づき、なぜか少しあたたかな気持ちになって見つめた。目を閉じた。しばらく目を開けることができなかった。
再び歩き出した男を見送った後も、その星はいつまでもそこに輝いていた。

【講評】
先日発行したコクゴのチカラにも書きましたが、杉みき子先生から「文学とは薄皮をはぐようにさまざまな言葉の側面を見せるもの」とインスパイアされる言葉を受け取った生徒が、読者によってさまざまな解釈をされるであろう言葉をこめた物語を書くことにチャレンジしました。実は、春先に書かれたもので、ひょっとしたら彼はまだ中3だったかもしれません。
もともと評論が得意で、理系のセンスを光らせるYF君ですが、あじわいのあるショートストーリーを書くことができました。
posted by まつさくら at 00:07| Comment(0) | 小説作文